企業規模による猶予はなく、労働者を1人でも雇用していれば対象になります。
この記事では「いつから義務化されるか」を起点に、施行日までに何を、どの順番で準備すればよいかを週単位で整理します。義務の対象範囲や項目そのものの説明は、別記事「カスハラ対策義務化は中小企業も対象?従業員1人でもやるべき4項目」に譲ります。
施行日は2026年10月1日。公布からの経緯
根拠となる改正法は令和7年法律第63号です。2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます。
公布から施行まで、法律には1年3か月あまりの周知期間が設けられていたことになります。
一方で、企業側の対応が2026年9月時点でまだ着手できていないケースは珍しくありません。公布から施行までの期間が長いこと自体が、対応の先送りにつながりやすい構造です。
施行日をもって、方針の明確化・相談窓口の設置・相談対応の体制整備・悪質な客への対応方針・相談者への不利益取扱い禁止という5つの措置が、労働者を1人でも雇用する全事業主の義務になります。
「9月中に終わらせないと違反」ではない
先に誤解を解いておきます。措置義務は「10月1日の時点で講じられている状態」を求めるものであり、9月中に手続きを完了させることそのものが法律上の要件ではありません。
ただし、方針の文言化・周知・窓口の周知には一定の準備期間が必要です。10月1日から逆算すると、実務上は9月中に着手しておかないと間に合わない、という時間的な制約が生じます。
この記事の週単位の表は、法律が定める期限ではなく、10月1日に間に合わせるための実務上の逆算スケジュールとして示しています。
9月の4週間でやることの全体像
準備の順番を先に一覧で示します。詳細は次章以降で説明します。
| 週 | やること | 目的 |
|---|---|---|
| 第1週 | 方針文書を作り、代表者名で日付を入れる | 方針の明確化 |
| 第2週 | 相談窓口を決めて周知文を出す | 相談窓口の設置 |
| 第3週 | 対応手順を全員に伝える | 相談対応の体制整備・悪質な客への対応方針 |
| 第4週 | 記録様式を用意し、就業規則や社内規程への反映を検討する | 記録の整備・不利益取扱い禁止の周知 |
自社の規模や決裁のスピードによって、各週の作業が前後してもかまいません。重要なのは、10月1日までに4つとも着手している状態にすることです。
第1週: 方針文書を作り、代表者名で日付を入れる
最初にやることは、会社としての方針を文書にすることです。
方針の内容は、「顧客等からの著しい迷惑行為に対しては毅然とした態度で対応し、対応した従業員を会社として保護する」という趣旨を、自社の言葉で書きます。
文書の末尾には、代表者の氏名と発行日を入れます。日付があることで、いつ方針を定めたかが後から確認できます。
例文の骨子は次のとおりです(〇〇部分は自社の情報に差し替えます)。
- 株式会社〇〇は、顧客・取引先等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に対し、従業員を保護する立場で毅然と対応します。
- 対応の要求内容が妥当でも、その手段や態様が社会通念上不相当な場合は、担当者の判断で対応を打ち切ることがあります。
- 相談したことを理由に、従業員が不利益な取扱いを受けることはありません。
- 制定日 2026年〇月〇日 株式会社〇〇 代表取締役 〇〇〇〇
この時点ではまだ社内に周知していなくてもかまいません。第1週の目標は「文書を確定させる」ことです。
第2週: 相談窓口を決めて周知文を出す
方針が固まったら、相談窓口を決めます。
窓口は社内の担当者でも、外部の相談窓口サービスでもかまいません。既存のセクハラ・パワハラ相談窓口と一体で運用することもできます。
窓口の担当者・連絡方法(電話・メール・対面のいずれか、または複数)・対応時間帯を決め、社内向けの周知文にまとめます。
周知文には、相談は「実際に被害が発生した場合」だけでなく、「発生するおそれがある場合」や「該当するか判断に迷う場合」も対象になることを明記します。
第2週の終わりまでに、周知文の文案を確定させておきます。配布は第3週にまとめて行っても構いません。
第3週: 対応手順を全員に伝える
第3週では、実際に顧客等からの迷惑行為が発生したときの対応手順を、全従業員に伝えます。
伝える内容の骨子は次のとおりです。
- 一人で対応させない。応対中の従業員から助けを求められたら、他の従業員や上長が加わる。
- 必要に応じて録音・録画を行う(個人情報保護法の範囲内で運用する)。
- 要求が繰り返される場合は、退去を求める、または電話を切る。
- 犯罪に該当する言動(暴行・脅迫等)があれば、ためらわず警察に通報する。
- 法的な対応が必要かどうかの判断は、顧問弁護士に相談する。
伝え方は、朝礼での説明・研修・社内報など、指針が周知手段の例として挙げるもので構いません。就業規則がない小規模な会社でも、口頭説明と配布資料の組み合わせで対応できます。
第1週・第2週で作った方針文書と窓口の周知文も、このタイミングで一緒に配布すると、伝える回数を1回にまとめられます。
第4週: 記録様式を用意し、社内規程への反映を検討する
最後の週では、実施した内容を記録に残す準備をします。
法律で定められた記録の様式はありません。ただし、いつ・誰に・何を伝えたかを示せる記録があると、後から労働局に説明を求められた際に対応できます。
用意しておく記録の例は次のとおりです。
| 記録の種類 | 内容 |
|---|---|
| 方針文書の配布記録 | 配布日・配布方法・対象者 |
| 周知(研修・朝礼等)の実施記録 | 実施日・参加者名簿・使用した資料 |
| 相談受付の記録様式 | 受付日・相談内容の要旨・対応結果(実際の相談が発生した際に使う様式をあらかじめ用意) |
就業規則や社内規程への反映が必要かどうかは、会社の規模と既存規程の内容によって変わります。特に、相談者に対する不利益取扱い禁止の規定を明文化するかどうかは、社会保険労務士に相談して判断することをすすめます。
10月1日以降にやること、準備が間に合わなかった場合
施行後は、方針・窓口・対応手順を「作って終わり」にせず、運用を続けます。
実際に相談が寄せられた場合は、都度、記録様式に沿って対応結果を残します。
方針や窓口の存在を従業員が忘れないよう、年1回を目安に再周知します。新入社員が入るタイミングでの周知も忘れずに行います。
10月1日の時点で方針や窓口が整っていない場合、直ちに罰則が科されるわけではありません。
まず労働局による助言・指導が行われ、改善が見られなければ勧告に進みます。勧告に従わない場合は、企業名が公表されることがあります。
措置義務そのものを怠ったことによる刑事罰はありませんが、労働局の報告徴収を拒否したり虚偽の報告をしたりした場合は、20万円以下の過料の対象になります。
さらに、方針や窓口が整っていない状態で従業員に被害が生じた場合、安全配慮義務違反として、従業員側から損害賠償を請求される根拠になり得ます。
準備が遅れている場合でも、まず方針文書と窓口の周知だけでも先に済ませ、対応手順や記録様式は10月以降に整えるという順番の入れ替えも実務上は可能です。
自社での方針作成や周知の実施記録づくりなど、対応に人手を割きにくい部分については、ハラスメント対策オンデマンド研修のような外部の教材を使う方法もあります。
周知と記録づくりを一括で行える教材で、基本額1社33,000円(税込・受講者10名まで)に、11名目以降は1名につき3,300円(税込)が加算される料金体系です。
よくある質問
Q. 施行日の2026年10月1日までに、何も対応していません。今からでも間に合いますか。
残り期間が短くても、方針文書の作成と窓口の周知は数日で着手できます。優先順位をつけて、方針・窓口・対応手順・記録の順で進めることをすすめます。
Q. 週単位のスケジュールどおりに進められない場合、順番を変えてもよいですか。
かまいません。この記事の週割りは10月1日に間に合わせるための逆算の目安であり、法律が定めた期限ではありません。自社の決裁の速さに合わせて調整してください。
Q. 就業規則の改定は9月中に必要ですか。
カスタマーハラスメントの措置義務そのものは、就業規則の改定を必須とはしていません。方針の文言化と周知が中心です。規程への反映が必要かどうかは、会社の状況によって異なるため、社会保険労務士に確認することをすすめます。
Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。
2026年9月時点の情報です。施行日(2026年10月1日)・公布日・改正法の内容は今後変更される可能性もあるため、自社の対応が要件を満たすかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。