カスハラ対策義務化は中小企業も対象?従業員1人でもやるべき4項目

従業員を1人でも雇用していれば、2026年10月からハラスメント対策の義務対象です。「何から手を付ければいいのか」が分からないまま10月を迎えようとしている方に向けた記事です。

結論から言うと、企業規模による猶予はなく、従業員を1人でも雇用していれば対象になります。

この記事では、義務の内容・自社で対応できる範囲・自社だけでは完結しない範囲を、規模別の違いを含めて整理します。

従業員が1人でもいれば対象。企業規模による猶予はない

対象になります。企業規模による猶予期間は設けられていません。

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策と求職者等セクシュアルハラスメント対策が事業主の措置義務になります。

対象となるのは、労働者を1人でも雇用する全ての事業主です。

従業員数が少ないことを理由に対応を免除する規定はなく、大企業・中小企業・個人事業主のいずれも同じ日から同じ義務を負います。

義務の内容と施行日、根拠となる条文

施行日は2026年10月1日です。カスタマーハラスメント対策の根拠条文は労働施策総合推進法第33条、求職者等セクシュアルハラスメント対策の根拠条文は男女雇用機会均等法第13条で、いずれも今回の改正で新設された条文です。

義務の具体的な内容は、厚生労働省の指針(カスタマーハラスメント対策指針・求職者等セクシュアルハラスメント対策指針、いずれも令和8年厚生労働省告示第51号・第52号)に定められています。義務は合わせて7つあります。

カスタマーハラスメント対策(5項目)

  1. 会社の方針を決めて、全員に伝える
  2. 相談できる窓口をつくる
  3. 相談を受けたときの対応の仕方を決める
  4. 悪質な客への対応方針を決める
  5. 相談した人が不利にならないようにする

求職者等セクシュアルハラスメント対策(2項目)

  1. 会社の方針を決めて、従業員と求職者に伝える
  2. 面接・面談のルールを決めて、採用に関わる人に教育する

求職者等セクシュアルハラスメント対策は、面接・インターンシップ・OBOG訪問など、自社が求職者と接する場面が対象です。

加害者が自社の従業員(面接官・採用担当者等)になり得る点が、加害者が社外の顧客であるカスタマーハラスメント対策との違いです。

対応しなかった場合に起きること

未対応の影響は、誰が動くかで2つに分かれます。

一つは労働局です。方針や窓口の整備が不十分だと、助言・指導を経て勧告に進みます(労働施策総合推進法第42条)。

勧告後も改めなければ、社名が公表されることがあります。

措置義務を怠っただけで刑事罰に問われることはありませんが、報告徴収を拒否・虚偽報告した場合は20万円以下の過料が科されます。

もう一つは従業員です。対応不足が原因で被害が生じれば、労働契約法第5条の安全配慮義務違反として、従業員側から損害賠償を請求される根拠になります。

従業員1人・10人・30人・50人で変わること、変わらないこと

義務の内容と施行日は、従業員が何名でも同じです。変わるのは、体制のつくり方です。

従業員1〜9名 従業員10名 従業員30名 従業員50名
義務の対象になるか 対象(猶予なし) 対象(猶予なし) 対象(猶予なし) 対象(猶予なし)
施行日 2026年10月1日 同左 同左 同左
就業規則の作成・届出義務(労働基準法第89条。常時10人以上を使用する事業場が対象) 対象外(常時10人未満) 既に義務の対象になる境界 義務あり 義務あり
相談窓口の担当 代表者本人が兼任するのが基本になる規模 代表者本人が兼任することが多い 総務・人事の担当者が兼任することが多い 専任担当者を置くか外部委託を検討する規模
方針の周知方法 口頭での個別説明で足りる規模 朝礼・掲示・個別説明で足りる規模 資料配布や簡単な説明会が必要になる規模 研修など、仕組み化した周知手段が必要になる規模

表の上2行(対象になるか・施行日)だけが法令上変わらない項目で、下3行は会社ごとの体制で決める実務上の目安です。法令が人数によって義務の内容を切り分けているわけではありません。

就業規則の作成・届出義務(労働基準法第89条)は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に課される、今回のハラスメント対策の改正とは別枠の一般的な労働法のルールです。

従業員10名の会社は、この境界にちょうど該当している可能性があります。

次の章で、この義務がハラスメント対策とどう関係するかを説明します。

自社でやるべき4項目

自社だけで対応できる部分から着手できます。手順は次の4つです。

1. 方針を文言化する。 厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(スーパーマーケット業編)」(令和7年3月発行)18ページに、基本方針の例文が掲載されています。

スーパー業界向けの例文であり、かつ2026年10月の指針改正より前の内容のため、抑止措置や不利益取扱い禁止の周知など、新しい指針で追加された論点は自社で補う必要があります。

2. 相談窓口を決める。 相談窓口の設置に法律上の資格は不要です。社内の担当者を決めるか、外部の窓口サービスに委託するかを選びます。

3. 全員に伝える。 求職者等セクシュアルハラスメント対策指針は、周知の方法として「就業規則等への規定」「社内報等への掲載」「研修」の3つを挙げ、このいずれかで足りるとしています。

カスタマーハラスメント対策指針も、周知の方法の一つとして研修を挙げています。就業規則がない小規模な会社でも、社内報や研修だけで周知の要件を満たせます。

4. 記録を残す。 義務を果たしたことを証明する法定の様式はなく、記録の作成・保存を義務づける条文もありません。

ただし、労働局の報告徴収では方針の整備状況・窓口の設置状況・周知の実態が確認されるため、いつ・誰に・何を伝えたかが分かる記録(配布した文書、実施した研修の日時と参加者名簿など)を残しておくと、後から聞かれたときに答えられます。

就業規則がない会社が用意するもの

就業規則の改定が必要になるのは、求職者へのセクシュアルハラスメントをした自社の従業員を懲戒処分する規定を作る場合だけです。判断の軸は「加害者が社内か社外か」です。

カスタマーハラスメントの加害者は社外の顧客のため、懲戒処分の対象になりません。就業規則は一切関係しません。

求職者等セクシュアルハラスメントの加害者は自社の従業員(面接官・採用担当者など)です。懲戒処分を行うには就業規則に根拠規定が必要になります(労働基準法第89条第9号)。

ただし、これは「懲戒処分をする場合」の話であり、方針そのものの周知には就業規則は不要です。前章の3択の周知方法のいずれかで足ります。

就業規則自体がない小規模な会社は、就業規則を作ってから対応しようとせず、まず方針の文言化と周知(研修や社内報)から着手して問題ありません。

記録の義務と、残しておくべきもの

法律で定められた保存義務はありませんが、残しておくことをすすめます。

前述のとおり、実施記録の作成・保存を義務づける条文や、指定された様式はありません。ただし、後から「いつ、誰に、何を伝えたか」を示せないと、労働局の報告徴収の際に周知の実態を説明しづらくなります。

配布した方針文書、研修を実施した日時と参加者の名簿など、実施の事実が分かる記録を残しておくことが実務上の備えになります。

自社だけで完結しない部分

3つあります。

就業規則の作成・変更の代行。 社会保険労務士の独占業務です(社会保険労務士法第2条第1項第2号・第27条)。無資格での有償代行は同法違反となり、1年以下の拘禁または100万円以下の罰金の対象になります。

求職者等セクシュアルハラスメントの懲戒規定を追加する場合は、社会保険労務士に依頼するか、自社の労務担当者が法令に沿って規定するかを選ぶことになります。

相談窓口の運営。 代表者や総務担当者が兼任することも可能ですが、身近な人には相談しにくいという課題があります。

厚生労働省の令和5年度委託調査では、カスタマーハラスメントを受けた際に社内の相談窓口を利用した人の割合は3.8%にとどまっています。外部委託を検討する場合は、外部の窓口サービスとの契約が必要です。

悪質なケースでの法的措置の検討。 弁護士の領域です。

自社で用意した方針や窓口が、実際に義務の要件を満たしているかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。

よくある質問

Q. 求職者等セクシュアルハラスメント対策とは何ですか。カスタマーハラスメント対策と何が違いますか。

求職者等セクシュアルハラスメント対策は、面接・インターンシップ・OBOG訪問など、自社が求職者と接する場面での性的な言動を防ぐための措置義務です。

加害者が自社の従業員(面接官・採用担当者など)である点が、加害者が社外の顧客であるカスタマーハラスメント対策と異なります。

Q. 措置義務の内容に、法律で決まった書式はありますか。

ありません。方針の文書化・周知・記録の作成や保存について、法律で定められた様式はありません。労働局の報告徴収では、方針の整備状況・窓口の設置状況・周知の実態が確認されます。

Q. 相談窓口は社内に作らないといけませんか。

社内・社外のどちらでも構いません。相談窓口の設置に法律上の資格は不要で、厚生労働省の指針も外部委託を明示的に認めています。

Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。

2026年9月時点の情報です。

指針・条文は改正法(令和7年法律第63号、施行日は令和8年10月1日=2026年10月1日)に基づいています。

自社の状況が要件を満たすかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。


研修の実施記録づくりや相談窓口の案内など、自社での対応が難しい部分だけを個別に相談したい場合は、ハラスメント対策オンデマンド研修のページで内容を確認いただけます。

執筆

代表取締役

高畠 将大

小樽商科大学卒業後、雪印メグミルクで海外貿易業務に従事。2018年からIT業界でSNSマーケティング・ブランディングのサービスを構築。2024年に株式会社リバラクトを創業。ハラスメント対策オンデマンド研修の企画・制作を担当。

自社での対応が難しい部分は

ハラスメント対策オンデマンド研修

2026年10月1日から義務になるカスタマーハラスメント対策・求職者等セクシュアルハラスメント対策に対応。全従業員への周知と、伝えた記録の保存が一度にできます。1社33,000円(税込)・受講者10名まで。

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