厚生労働省の指針は、事業主に「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針」の明確化と、管理監督者を含む労働者への周知・啓発を求めています。
この記事では、指針が求める方針の構成要素を分解し、自社で作成したオリジナルの文例を使って、社内向けの周知文と社外向けの掲示文をそれぞれ示します。
指針が求める「方針の明確化・周知」とは何か
指針は、カスタマーハラスメント対策の措置義務の一つとして、方針の明確化と周知を挙げています。
方針の中身は「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」旨です。抽象的な宣言ではなく、実際にどう対応するかまで含めて示すことが求められます。
周知先は、管理監督者を含む労働者が必須です。顧客等への周知は、指針上「効果的」な取り組みとして位置づけられています。
周知の手段として、指針は社内報・パンフレット・社内Webサイトへの掲載、経営トップによるメッセージの発信、研修・講習の実施を挙げています。
基本方針に入れる7つの要素
基本方針の文書には、次の7つの要素を入れます。
- 方針を定める目的
- カスタマーハラスメントの定義
- 会社の基本姿勢(毅然とした対応・従業員保護)
- 該当しうる行為の例
- 具体的な対応方針
- 相談窓口の案内
- 相談による不利益取扱いの禁止
このほか、方針の実効性を示すために制定日と代表者名を末尾に入れておきます。
カスタマーハラスメントの定義(3要素)
指針は、次の3つの要素をすべて満たすものをカスタマーハラスメントと定義しています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 行為の主体 | 顧客・取引先等の言動であること |
| 行為の程度 | 業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えること |
| 影響 | 労働者の就業環境が害されること |
対面での言動だけでなく、電話・メール・SNSなど非対面の言動も対象に含まれます。
基本方針にこの3要素を書く際は、指針の定義をそのまま引用するのではなく、指針の定義を参考にして自社の言葉で書く方法があります。
対応方針に入れる具体例
指針は、対処内容の例として、一人で対応させないこと、録音・録画(個人情報保護法の遵守が前提)、繰り返しの要求に対する退去要請や電話を切ること、犯罪に該当する言動への警察通報、法的対応が必要な場合の弁護士への相談を挙げています。
これらは限定列挙ではないため、自社の業種・接客形態に応じて、対応方針に加える項目を増やして構いません。
対応方針は、基本方針の文書の中に書くだけでなく、現場の従業員が参照できる対応手順書として別に作成しておくと、実際の場面で使いやすくなります。
社内向け文例(従業員への周知文)
以下は自社で作成したオリジナルの文例です。差し替え箇所は「〇〇」で示します。
「〇〇株式会社は、お客様等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に対して、毅然とした態度で対応し、従業員を保護することをここに定めます。」
「カスタマーハラスメントとは、お客様等の言動のうち、業務上必要かつ相当な範囲を超え、従業員の就業環境を害するものをいいます。」
「該当しうる行為には、大声での威嚇、長時間の拘束、土下座の要求、金銭・謝罪の過剰な要求、SNSでの誹謗中傷等が含まれます。」
「該当する言動を受けた場合、従業員は一人で対応せず、上長または相談窓口(〇〇部〇〇)へ速やかに報告してください。」
「必要に応じて会話の録音を行い、犯罪行為に該当すると判断される場合は警察へ通報します。」
「本方針に基づき相談・報告を行ったことを理由に、当該従業員に対して不利益な取扱いは行いません。」
「制定日 2026年〇月〇日 代表取締役 〇〇〇〇」
社外向け文例(掲示・Web掲載用)
顧客等への周知は、指針上「効果的」な取り組みとされています。以下は店舗掲示やWeb掲載を想定した文例です。
「〇〇株式会社は、お客様に安心してご利用いただける環境と、従業員が安全に働ける環境の両立を目指しています。」
「暴言・威嚇・長時間の拘束・金銭の不当な要求など、社会通念上許容される範囲を超える行為があった場合、当社は従業員を保護するため、対応をお断りする場合があります。」
「必要と判断した場合には、会話の録音、警察への通報、法的措置を行うことがあります。」
「ご理解とご協力をお願いいたします。」
社外向け文例は、社内向けの対応手順(誰が録音するか、どの基準で通報するか)まで詳しく書く必要はなく、顧客に伝わる範囲の宣言にとどめます。
周知の方法と、方針を作った後にすること
指針が挙げる周知手段は、社内報・パンフレット・社内Webサイトへの掲載、経営トップによるメッセージの発信、研修・講習の実施です。
指針はこれらを周知手段の例として挙げています。就業規則がない小規模な会社でも、社内報や研修を周知手段として使えます。
方針を作った後は、実際に周知した記録(配布した文書、実施した研修の日時と参加者名簿など)を残しておくと、労働局の報告徴収の際に周知の実態を説明しやすくなります。
方針の内容や周知方法が自社の状況で義務の要件を満たしているかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。
ハラスメント対策オンデマンド研修は、基本方針の周知手段の一つである研修・講習にあたります。
料金は1社33,000円(税込・受講者10名まで)、11名目以降は1名につき3,300円(税込)の加算です。基本方針の周知記録として、実施報告書を納品物に含めています。
よくある質問
Q. 基本方針は就業規則に書かないといけませんか。
就業規則への記載は周知方法の一つですが、必須ではありません。社内報・社内Webサイトへの掲載、研修の実施も指針が挙げる周知手段です。
Q. 社外向けの掲示は義務ですか。
指針では、顧客等への周知は「効果的」な取り組みとして位置づけられています。義務か努力義務かの区別については、この記事では断定を避け、管轄の労働局に確認してください。
Q. 基本方針の例文をそのまま使ってもいいですか。
この記事の文例は自社の状況に合わせて作成したオリジナルの文例です。業種・接客形態・相談窓口の体制に応じて、文言を書き換えて使用してください。
Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。
2026年9月時点の情報です。指針・条文は改正法(令和7年法律第63号、施行日は令和8年10月1日=2026年10月1日)に基づいています。自社の方針や文例が要件を満たすかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。