厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年2月公表)を主な参考資料としています。同マニュアルは2026年10月施行の指針より前に出された資料で、新しい指針の内容をすべて反映しているわけではありません。
1. 初期対応。一人で受け止めない
対応は複数名が基本です。担当者を一人にしないことで、言った言わないのすれ違いと、心理的な負担の両方を防ぎます。
現場に管理者が不在の時間帯もあるため、一般の従業員だけでも初期対応ができるよう、あらかじめ手順を共有しておく必要があります。
初期対応でやることは次の3つです。
- 相手の名前と連絡先を確認する
- 主張を途中で遮らず一通り聞く
- メモを取り、聞いた内容を復唱して確認する
「今すぐ答えを出せ」と迫られても、その場で結論を出す必要はありません。持ち帰って確認する旨を伝えて構いません。
2. 事実確認。答えを急がない
初期対応の後、現場監督者または相談窓口に時系列で共有し、事実関係を確認します。
確認するのは、自社の商品・サービスに過失や瑕疵があったかどうかです。証拠や証言など、確かめられる材料に基づいて判断します。
この段階でも、その場で結論を出す必要はありません。事実確認が済むまで、対応方針は保留にできます。
3. 判断の2軸。妥当性と相当性を分けて見る
事実確認が終わったら、複数名で判断します。見る軸は2つです。
| 軸 | 確認すること |
|---|---|
| ① 要求内容の妥当性 | 商品・サービスに過失や瑕疵があるか。要求に根拠があるか |
| ② 手段・態様の相当性 | 要求を実現する方法が社会通念上相当な範囲か |
2軸の組み合わせで、対応は次の3つに分かれます。
| 分岐 | 状態 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 正当なクレーム | 要求に妥当性があり、手段も相当 | 謝罪・交換・返金など通常の対応 |
| 妥当だが手段が不相当 | 要求に妥当性はあるが、手段・態様が社会通念を超える | 要求の一部には応じつつ、手段には応じない旨を伝える |
| 要求自体が妥当性を欠く | 過失や瑕疵がなく、要求に根拠がない | 応じられないことをはっきり告げる |
要求内容が著しく妥当性を欠く場合は、手段の程度にかかわらず不相当と扱われる可能性が高くなります。逆に、要求に妥当性があっても、手段の悪質性が高ければ不相当と判断されることがあります。
なお、要求内容に妥当性がなくても、拒否したらすぐに取り下げた場合は、就業環境が害されたとまでは言えず、カスハラに該当しない可能性があります。一度の要求だけで即座に悪質と決めつけないことも判断の一部です。
4. 対応方針。応じられないことをはっきり伝える
分岐後の対応方針として共通するのは、応じられないことを明確に告げることです。曖昧な言い方は、要求のエスカレートを招きます。
膠着状態が続く場合は、退去要請や通話の終了に進みます。この間、対応記録をつけ、必要に応じて相手の了解を得て録音します。
対応の場所や体制を変えることも有効です。店頭ではなく個室で複数名が対応する、電話なら第一受信者が責任を持ちたらい回しにしない、といった対応です。
5. 行為類型別の対応例
行為の性質によって、対応の重点が変わります。厚生労働省マニュアルの記載を要旨でまとめました。
| 類型 | 行為の例 | 対応の要旨 |
|---|---|---|
| 時間拘束型 | 長時間の拘束・居座り・長時間の電話 | 応じられないことを告げ、膠着状態が続いたら退去要請や通話終了に進む |
| リピート型 | 理不尽な要望の繰り返し | 連絡先を確認し、次回以降は対応しない旨を伝える。続く場合は窓口を一本化する |
| 暴言型 | 怒鳴り声・侮辱・人格否定 | やめるよう求め、事実確認のため録音する。程度がひどければ退去を求める |
| 暴力型 | 殴る・蹴る・物を投げる | 安全確保を優先し、複数名で対応。直ちに警察に通報する |
| 威嚇・脅迫型 | 脅迫的な発言、反社会的勢力をほのめかす | 複数名で対応し、弁護士・警察への相談を検討する |
| 権威型 | 権威を振りかざす、文書謝罪や土下座の強要 | 不用意な発言を避け、上位者に交代して要求に応じない |
| 店舗外拘束型 | 自宅や喫茶店に呼びつける | 単独で行かない。事前に金額・時間・場所の基準を決めておく |
| SNS・ネット誹謗中傷型 | ネット上の名誉毀損・プライバシー侵害 | 運営者に削除を求め、発信者情報の開示は弁護士に相談する |
| セクシュアルハラスメント型 | 身体接触、つきまとい、性的な発言 | 証拠を残して事実確認し、繰り返す場合は弁護士・警察に相談する |
殴る・蹴るといった暴力行為は、直ちにカスハラに該当し、犯罪に該当し得る行為です。判断を待たず、安全確保と通報を優先します。
6. エスカレーション。暴力・脅迫は直ちに警察
暴力・脅迫を伴う場合は、社内での判断を待たず直ちに警察に相談します。それ以外の悪質なケースでは、弁護士や警察への相談を検討します。
一人で抱え込まず、上位者や相談窓口に必ず共有することが前提です。判断に迷う段階でも、共有すること自体は先に済ませておけます。
7. 従業員のケアと相談窓口への共有
対応した従業員には、対応後のケアが必要です。相談窓口には、対応内容とその結果を必ず共有します。
対応した従業員が孤立しないようにすることは、次に同様の事案が起きたときの初動の速さにもつながります。
8. 記録と再発防止
対応が終わった後は、対応記録を残し、対応例の見直しに使います。同じ行為類型が繰り返される場合、対応例をより具体的に更新します。
記録に残す項目は、発生日時、相手の主張、事実確認の結果、判断の分岐、対応内容、対応者です。
フローチャートは作っただけでは動きません。全従業員が手順を知っている状態にすることが、指針の求める周知にあたります。研修は、この周知の手段の一つです。
ハラスメント対策オンデマンド研修は、基本額1社33,000円(税込・受講者10名まで)に、11名目以降1名3,300円(税込)を加算する料金で、対応フローの理解を全従業員に広げる手段の一つです。
よくある質問
Q. フローチャートに沿えば、カスハラ対策の義務を満たせますか。
フローチャートは相談対応の体制整備の一部を埋めるものであり、それだけで義務全体を満たすものではありません。方針の周知や相談窓口の設置など、他の項目と合わせて整える必要があります。
Q. 「一定時間」とはどのくらいの時間を指しますか。
厚生労働省のマニュアルに具体的な分数の定めはありません。膠着状態がどの程度続いたら退去要請や通話終了に進むかは、各社が自社の基準として決める事項です。
Q. 判断の2軸は、誰が確認すればよいですか。
現場監督者や相談窓口の担当者など、複数名で確認することが基本です。一人の判断だけで対応方針を決めないことが、事後の説明のしやすさにつながります。
Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。
2026年9月時点の情報です。厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアル(2022年2月公表)を主な参考資料としており、2026年10月施行の指針の内容をすべて反映しているとは限りません。自社の対応フローが義務の要件を満たすかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。