パワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)は、事業主に相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することを義務項目の一つとして求めています。
この記事では、従業員数人の会社を想定した設置手順と、パワハラ・セクハラ・カスハラを1つの窓口でまとめて受ける考え方を説明します。
窓口は1つでよい。分ける必要はない
パワハラ防止指針は、セクハラ等の相談窓口と一体化し、一元的に相談を受け付ける体制整備を想定しています。
ハラスメントの種類ごとに窓口を分ける規定はありません。
パワハラ・セクハラ・カスハラを同じ窓口で受ける形にすれば、従業員は「何かあったらここ」という一つの連絡先だけを覚えれば足ります。
会社側も、担当者・受付手段・周知文書を1組用意するだけで済みます。
窓口を1つにまとめられるかどうかの最終的な適合判断は、管轄の労働局または顧問の社会保険労務士に確認してください。
手順1. 担当者を決める
担当者は、社長以外の役員か総務担当者から選びます。
相談内容が上司本人に関するものだった場合、相談者が担当者本人に相談しにくくなる事態を避けるためです。
担当者を2名以上にするか、外部の相談先(社会保険労務士・弁護士・EAP等)を並行して用意しておくと、相談者が担当者を選べる状態になります。
外部委託先ごとの費用感は会社の規模や契約内容で変わるため、この記事では扱いません。
手順2. 受付手段を決める
受付手段は、メール・電話・面談のいずれか、または組み合わせで決めます。
匿名での相談を受け付けるかどうかも、この段階で決めておきます。
匿名を認める場合、事実確認の連絡が取れない前提で対応方針を組み立てる必要があります。
| 受付手段 | 向いている会社の規模 | 注意点 |
|---|---|---|
| メール | 全規模 | 記録が残る。返信の速さが問われる |
| 電話 | 対応できる人員がいる会社 | 記録を別途取る必要がある |
| 面談 | 全規模 | 場所と時間の確保が必要 |
手順3. 案内文書を1枚にまとめる
窓口名・連絡先・受付時間・秘密保持・不利益取扱い禁止の5点を、1枚の文書に書きます。
相談したこと、相談対応に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止は、労働施策総合推進法第30条の2第2項に定められています。
以下は文例です。差し替え箇所は「〇〇」で示します。
- 窓口名: 〇〇株式会社 ハラスメント相談窓口
- 連絡先: 担当〇〇(役職〇〇)、メールアドレス〇〇、電話番号〇〇
- 受付時間: 〇〇曜日〇〇時〜〇〇時(時間外は翌営業日対応)
- 秘密保持: 相談内容・相談者の氏名は、事実確認に必要な範囲を超えて他者に共有しません
- 不利益取扱い禁止: 相談したこと、相談対応に協力したことを理由に、解雇・降格・減給その他不利益な取扱いは行いません
パワハラ・セクハラ・カスハラのいずれも、この窓口で受け付けます。
手順4. 周知する
作成した案内文書は、掲示・社内Web・研修のいずれかの方法で全従業員に周知します。
掲示する場合は、休憩室や更衣室など、従業員が日常的に目にする場所に貼ります。
周知は一度で終わらせず、入社時のオリエンテーションと、年1回の頻度で再度周知する機会を設けておきます。
異動や組織変更で担当者が変わったときも、そのタイミングで再周知します。
指針は、発生している場合だけでなく、おそれがある場合や該当するか微妙な場合も広く相談を受け付ける姿勢を求めています。
「はっきりした被害がないと相談してはいけない」という誤解が広がると、窓口が機能しなくなります。
周知の際は、この点も併せて伝えておくと、相談のハードルが下がります。
手順5. 相談を受けたあとの流れを決める
相談を受けた際に何を記録するか、事実確認をどう進めるかを、あらかじめ簡単に決めておきます。
最低限、相談日時・相談者名(匿名の場合は不明と記載)・相談内容の要旨・対応した担当者名の4項目を記録する様式を用意します。
事実確認は、相談者と、必要に応じて関係者双方から話を聞く形で進めます。
事実確認の過程や結果も、手順3で定めた秘密保持の対象に含めます。
手順6. 事実確認から結果報告までを1人で決めない
事実確認と対応方針の判断は、担当者1名だけで結論を出さず、複数名で確認します。
役員1名と総務担当1名の組み合わせなど、あらかじめ決めた2名以上で判断する体制にしておきます。
相談を受けたその場で結論を出さず、関係者からの聞き取りを終えてから対応方針を決めます。
結論が出たら、対応の概要を相談者に報告します。処分の詳細まで伝える必要はありません。
相談者への報告を省略すると、「相談しても何も変わらない」という印象につながり、次の相談が上がってこなくなります。
従業員数人の会社が陥りやすい誤解
「相談窓口は専門部署か外部業者でないと作れない」という誤解が広がっていますが、指針は窓口の形態を指定していません。
社内の担当者1〜2名とメールアドレス1つがあれば、最小構成として成立します。
外部委託を選ぶかどうかは、担当者が確保できるかどうかで判断すれば足ります。
自社で用意した窓口が義務の要件を満たしているかどうかは、管轄の労働局または顧問の社会保険労務士に確認してください。
株式会社リバラクトの「ハラスメント対策オンデマンド研修」は、1社33,000円(税込・受講者10名まで)で、11名目以降は1名3,300円(税込)を加算します。
この研修は、相談窓口の案内テンプレートを含む義務項目の穴埋め文書を提供しています。窓口の文書化から着手したい会社は、研修と合わせて利用できます。
よくある質問
Q. 相談窓口の担当者に資格は必要ですか。
指針は担当者の資格や属性を指定していません。相談者から見て相談しやすい立場の人を、社内で選べば足ります。
Q. パワハラとカスハラの窓口を同じにしてよいですか。
指針は一元的な体制整備を想定しており、種類ごとに窓口を分ける規定はありません。1つの窓口で運用して差し支えありません。
Q. 匿名の相談は受け付けなければなりませんか。
法律上の義務ではありませんが、匿名でも相談しやすい環境を整えることは、相談窓口が機能するための実務上の工夫として推奨されています。
Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。
2026年9月時点の情報です。自社の窓口設置が要件を満たしているかどうかは、管轄の労働局または顧問の社会保険労務士に確認してください。</content>