入社前研修は違法?内定者への給料や無給の扱いは義務か任意かで分かれる

入社前研修そのものが一律に違法なのではありません。参加が義務か任意か、つまり使用者の指揮命令下にあるかどうかで扱いが分かれます。

この記事では義務として課す場合の考え方、内定と内定取消の位置づけ、任意にする場合の設計条件を、根拠とあわせて整理します。

入社前研修は一律に違法ではない。分かれ目は義務か任意か

厚生労働省の青少年雇用指針には、内定者の入社前研修や課題を直接定めた条項は見当たりません。

扱いを分けるのは、その研修が労働時間に当たるかどうかです。労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

この考え方は、三菱重工業長崎造船所事件(最高裁第一小法廷、平成12年3月9日判決)が示しています。該当性は契約や就業規則の定めではなく実態で客観的に決まります。

案内文に「任意参加」と書いただけでは足りません。実態が義務であれば、義務として扱われ得ます。

内定は労働契約が成立した状態。内定取消は解雇にあたる

厚生労働省は内定を一般に始期付き・解約権留保付きの労働契約が成立した状態としています。内定取消は解雇にあたるため、合理的な理由が必要です。

大日本印刷事件(最高裁第二小法廷、昭和54年7月20日判決)も、事案について解約権を留保した労働契約が成立したと判断しました。

青少年雇用指針も、労働契約が成立したと認められる場合の取消は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でなければ無効となることに留意するよう求めています。

したがって「研修に出ないなら内定を取り消す」という伝え方は、解雇の問題として扱われます。自由な意思決定を妨げる内定辞退の勧奨も、指針は違法な権利侵害のおそれがあるとしています。

義務として課す場合の考え方。労働時間に当たり得る

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)は、労働時間の考え方を示しています。

同ガイドラインは、参加が業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講を、労働時間として扱う例に挙げています。

自主的な研修と申告されていても、実際に使用者の指示で業務に従事していれば、労働時間として扱います。

以下は条文と厚生労働省の一般的な説明をつなげた推論です。内定者研修を直接述べた公的資料は、確認できていません。

  • 研修が労働時間と評価されれば、労働基準法第9条の労働者、同法第11条の賃金の問題になり得ます
  • 最低賃金法第4条の最低賃金や、労災保険給付の対象にもなり得ます

「賃金が必ず必要」とは言えません。三菱重工業長崎造船所事件は作業服の着用などの準備行為の事案で、研修の判決ではありません。賃金額の計算方法も内定者研修では確認できていません。

労働時間かどうかを分ける事例。厚生労働省のリーフレット

厚生労働省のリーフレット「『研修・教育訓練』に関する労働時間の考え方」(令和8年6月版)は、業務上義務づけられていない自由参加の研修は労働時間に当たらないとしています。事実上参加を強制されていれば、労働時間に当たります。

区分 事例 分けた要素
当たらない Web学習ツールを提供するが、受講を指示せず、試験も人事評価への反映もない 指示・試験・評価反映がない
当たる 形式上は自由参加だが、受講が正社員になる要件で、シフトも調整した小売業 要件化・シフト調整
当たる 自由参加の勉強会だが、日時・場所を使用者が決め、レポート提出や欠席への指導があった学習塾 日時指定・提出物・欠席指導

いずれも在職者の事例で、内定者を名指しした見解ではありません。

内定者向けの課題にあてはめると、提出期限を会社が決めて未提出者に個別に催促する運用は、学習塾の例に近づくと考えられます(推論)。

判例解説が示す入社前研修と任意の同意

入社前研修への不参加を理由とする内定取消しが争われた裁判例があります(東京地裁、平成17年1月28日判決、労働判例890号5頁)。判決文は確認できておらず、以下は判例解説による二次情報です。

判例解説によれば、博士課程に在籍していた内定者は、論文の準備と研修が重なり、2週間に1回2〜3時間の研修に7回参加しませんでした。会社は試用期間の延長か再受験を求めました。判旨は次の2点と伝えられています。

  1. 効力始期付きの内定では、入社前研修を業務命令として命じる根拠はなく、任意の同意に基づくものにとどまる
  2. 学業への支障は不参加の正当な理由になる。同意した者が学業への支障など合理的な理由で取りやめを申し出たときは、使用者に免除すべき信義則上の義務がある

解説の抜粋には、労働時間や賃金への言及が見当たりません。この判決を、賃金が必要な根拠にはできません。

任意にする場合の設計条件

任意参加として設計する場合に、公的資料と判例解説から言える条件です。根拠に「推論」とあるものは、事例の裏返しです。

設計条件 根拠 運用の例
不参加・未提出でも不利益がない リーフレット(事実上の強制は該当) 内定取消・配属・評価に反映しない
会社が受講を指示しない リーフレットの非該当事例 「希望者向け」と案内し、督促しない
試験や人事評価に使わない リーフレットの非該当事例 習熟度を判定せず、評価資料にしない
入社の要件にしない 小売業の事例の裏返し(推論) 未受講でも入社手続きは同じにする
学業を優先できる 東京地裁平成17年判決の判例解説 試験・卒論の時期は免除する
日時や量を本人が選べる 学習塾の事例の裏返し(推論) 期限を固定せず、範囲も本人が決める
合理的な理由があれば取りやめられる 東京地裁平成17年判決の判例解説 学業を理由とする辞退の連絡先を案内する

条件を揃えても、実態が義務であれば、義務として判断され得ます。見られるのは案内文ではなく運用です。

実施前に会社が決めておくこと

  1. 義務として課すのか、任意にするのかを、どちらか一つに決める
  2. 義務なら、労働時間として扱う前提で、賃金・労災の扱いを社会保険労務士に確認する
  3. 任意なら、上の表の条件を案内文に書き、運用も合わせる
  4. 不参加・未提出の人への連絡の有無と文面を決めておく

案内文と運用が食い違う場合は、運用の実態から判断されます。個別の声かけが事実上の強制になるかどうかも実態次第です。

入社前の課題の一例

課題の内容にかかわらず、義務か任意かは会社の運用で決まります。

一例として、弊社の内定者準備BOOKは冊子3冊とアンサーシート、講師の添削がセットで、1名15,000円(税別)です。

よくある質問

Q. 入社前研修を無給で実施すると違法ですか。

無給かどうかだけでは決まりません。労働時間に当たるかが分かれ目で、義務として課せば賃金などが問題になり得ます。違法・適法のどちらも断定はできません。

Q. 「任意参加」と案内すれば、労働時間に当たらないと言えますか。

言えません。労働時間かどうかは契約や案内文の定めではなく指揮命令下に置かれていたかという実態で客観的に決まります。不参加で不利益があれば、事実上の強制と判断され得ます。

Q. 内定者に課題を出すとき、提出期限を決めてよいですか。

期限を禁じる定めは確認できていません。ただし、会社が期限を決めて未提出者を個別に指導する運用は、学習塾の例(在職者)に近づきます。期限は目安として案内する方法があります。

Q. 内定者が学業を理由に参加を断ったら、内定を取り消せますか。

内定取消は解雇にあたり、合理的な理由が必要です。東京地裁の裁判例(平成17年1月28日判決)の判例解説は、学業への支障を不参加の正当な理由としています。取り消す前に社会保険労務士に確認してください。

Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。

2026年10月時点の情報です。自社の運用が義務と任意のどちらに当たるかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。

高畠 将大

代表取締役

高畠 将大

小樽商科大学卒業後、2011年に雪印メグミルク株式会社へ入社し、海外事業所の新規立ち上げに携わる。2018年に個人事業主として独立し、マーケティング・ブランディング支援などを手がける。2024年に株式会社リバラクトを創業、代表取締役に就任。

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