この記事では、対応を打ち切ってよいとされる根拠、実際に打ち切るまでの手順、場面別に使えるセリフの例、会社として基準を決めておく必要性を整理します。
長時間対応は打ち切ってよい。根拠は「業務への支障」
打ち切ってよい場合があります。
厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルは、長時間に及ぶクレームについて、業務の遂行に支障が生じるという観点から社会通念上相当性を欠く場合が多いと明記しています。
要求の中身に一定の理があっても、それを実現するための手段や態様が社会通念上相当な範囲を超えていれば、不相当と判断されうるという整理です。長時間の拘束や長時間の電話は、この「手段・態様」の問題として扱われます。
つまり、要求内容の妥当性とは別に、時間の長さそのものを理由に対応を終えられる場合があります。
打ち切りの手順。マニュアルが示す対応の流れ
同マニュアルは、長時間の拘束・居座り・長時間の電話を「時間拘束型」、理不尽な要望を繰り返し求めてくるものを「リピート型」として、対応例を示しています。
手順は次の5つです。
- 対応できない理由を説明し、これ以上は応じられないことを明確に告げる
- 膠着状態が続いたら、お引き取りを願う、または電話を切る
- 複数回の電話には、あらかじめ対応できる時間をこちらから伝えておく
- 帰らない場合は、毅然と退去を求める
- 状況に応じて弁護士への相談・警察への通報を検討する
リピート型では、連絡先を取得したうえで繰り返しを注意し、次回以降は対応できない旨を伝えます。それでも続く場合は、通話内容を記録し、窓口を一本化して対応します。
マニュアルは「膠着状態が一定時間を超えたら」という書き方をしており、具体的な分数は示していません。時間の基準は会社ごとに決める事項です。
対応中に守る2つの原則
マニュアルは、電話・対面いずれの対応でも守るべき原則を挙げています。
一つは、対応できることとできないことをはっきりさせ、過大な期待を抱かせないことです。あいまいな返答は、相手の要求をさらに長引かせる原因になります。
もう一つは、その場しのぎの回答をしないことです。即答できない内容は、事実確認をしたうえで折り返す対応にします。
この2つを守らずに場をしのごうとすると、後から「あのとき対応すると言った」という新たな主張を招きます。
場面別に使えるセリフの例
以下は、上記の手順に沿って自社で作成したセリフの例です。実際に使う場合は、自社の呼称・時間の基準に置き換えてください。
- 対面で膠着状態になったとき:「ご要望には沿えないという結論に変わりはございません。この場でこれ以上お話しできることはございませんので、本日はこちらで失礼いたします」
- 電話を終えるとき:「ご説明した内容と同じお答えになりますので、本日のお電話はここまでとさせていただきます」
- 折り返しにするとき:「その場ではお答えできない内容ですので、社内で事実関係を確認したうえで、〇〇日までにこちらからご連絡いたします」
- 同じ要求を繰り返されたとき:「同じご要望について、これまでに〇回お答えしております。同じ内容でのお電話・ご来店にはこれ以上対応いたしかねます」
- 帰ってもらうとき:「ご案内できる内容は以上です。これ以上こちらにいらっしゃる理由がございませんので、お引き取りください」
- 複数回の電話に事前に基準を伝えるとき:「お問い合わせは1回あたり〇分を目安にお受けしております。それ以降は改めてお時間を頂戴いたします」
いずれも、謝罪の対象は「ご期待に沿えないこと」に限定しています。要求そのものに非があると認める言い方は避けています。
従業員個人の判断にしない。会社が基準を決めて周知する
対応の打ち切りを、現場の従業員一人の判断に委ねてはいけません。
「何分を超えたら打ち切るか」「何回目の連絡から対応を止めるか」「誰が最終的な対応を担うか」を、会社があらかじめ基準として決めておく必要があります。
例えば、対面・電話とも「一区切りごとに30分」を目安にする、といった形です。この分数は厚生労働省が示した数字ではなく、各社が自社の業務内容に応じて決める例です。
基準がなければ、従業員ごとに対応が変わり、粘れば長く対応してもらえるという印象を相手に与えかねません。
この「対応方針の周知」は、2026年10月1日施行のカスタマーハラスメント対策における措置義務のうち、「悪質な客への対応方針を決める」という項目に位置づけられます。基準を決めて周知することは、義務対応の一部でもあります。
自社での基準づくりが難しい場合
方針の文言化や周知の手段として、研修を使う会社もあります。
株式会社リバラクトの「ハラスメント対策オンデマンド研修」は、1社33,000円(税込・受講者10名まで、11名目以降は1名につき3,300円税込)で、全従業員向けのカスタマーハラスメント対策研修を提供しています。
対応の打ち切り方の考え方を全従業員に共有する手段の一つとして、研修の実施記録を残す形でも周知が可能です。
自社で用意した基準が義務の要件を満たしているかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。
よくある質問
Q. 長時間の対応を打ち切れば、必ずカスハラとして処理されますか。
打ち切ること自体は、要求内容の妥当性やその後の相手の対応も含めて総合的に判断されます。打ち切りの手続きを踏んだからといって、法的な適合が保証されるわけではありません。
Q. セリフをそのまま使えば、法的に問題なく断れますか。
セリフの例は、対応を打ち切る際の言い方の一つの型を示したものです。個別の状況によって適否は変わるため、そのまま使えば安全と保証するものではありません。
Q. 一定時間の目安は、法律や指針で決まっていますか。
決まっていません。厚生労働省のマニュアルは「膠着状態が一定時間を超えたら」という書き方にとどめており、具体的な分数は各社が自社の業務内容に応じて決める事項です。
Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。
2026年9月時点の情報です。指針・条文は改正法(令和7年法律第63号、施行日は令和8年10月1日=2026年10月1日)に基づいています。自社の状況が要件を満たすかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。</content>