「これは警察を呼ぶ場面なのか」という迷いが、対応の遅れにつながります。この記事では、110番・#9110・社内対応の3段階に分ける基準と、該当しうる罪名を整理します。
3段階の判断基準
まず全体像を表で示します。緊急性で分けるのが基本です。
| 段階 | 連絡先 | 対象になる場面 |
|---|---|---|
| 今すぐ通報 | 110番 | 目の前で暴行・傷害・脅迫等が起きている、またはまさに起きようとしている |
| 事後の相談 | #9110(警察相談専用電話) | 犯罪や事故は発生していないが、対応に迷っている、過去のやり取りについて相談したい |
| 社内で対応 | 相談窓口・上長 | 要求内容に無理があるが、脅迫や暴力を伴わない、まだ交渉の余地がある段階 |
110番は「今すぐ警察官に駆け付けてもらいたい緊急の事件・事故」を受け付ける緊急通報用電話です。
#9110は、かけた地域の警察本部等の窓口につながる全国共通の警察相談専用電話で、受付時間は原則平日8:30〜17:15です(都道府県警察本部により異なります)。通話料は利用者負担です。
該当しうる罪名と法定刑
110番するかどうかの判断材料として、どの行為がどの罪名に該当しうるかを知っておくと迷いが減ります。
行為が実際に犯罪に当たるかどうかを最終的に判断するのは警察・検察です。以下はあくまで「該当しうる」行為の整理です。
| 行為の例 | 罪名・条番号 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 殴る、物を投げつける | 暴行罪(刑法208条) | 2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
| 暴行の結果けがをさせる | 傷害罪(刑法204条) | 15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 「殺す」「家族に危害を加える」等の告知 | 脅迫罪(刑法222条) | 2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金 |
| 脅迫・暴行で謝罪や土下座等を強いる | 強要罪(刑法223条) | 3年以下の拘禁刑 |
| 脅して金品を要求する | 恐喝罪(刑法249条) | 10年以下の拘禁刑 |
| 大声・居座り等で業務を妨害する | 威力業務妨害罪(刑法234条) | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 退去を求めても居座り続ける | 不退去罪(刑法130条) | 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 |
| 事実を挙げて評判を落とす発言をする | 名誉毀損罪(刑法230条) | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 事実を挙げずに公然と侮辱する | 侮辱罪(刑法231条) | 1年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
東京都のカスタマー・ハラスメント防止指針も、暴行・脅迫・傷害・強要・名誉毀損・侮辱・威力業務妨害・不退去等を「犯罪として処罰される可能性がある」行為として挙げています。
これらの行為が実際に発生した、または発生の危険が迫っている場合が、110番の対象になります。
厚生労働省の指針が挙げる対処例
厚生労働省のカスタマーハラスメント対策指針は、対処内容の例として、犯罪に該当する言動には警察に通報すること、繰り返しの要求には退去を要請したり電話を切ったりすること、担当者を一人で対応させないことを挙げています。
「一人で対応させない」という点は、通報の判断以前の備えとして重要です。暴力や脅迫が起きうる場面ほど、複数人での対応を基本にしておくことで、通報の判断自体も速くなります。
通報するときに伝える情報
110番・#9110のどちらでかけるにせよ、伝える内容を事前に整理しておくと、電話口での説明が短時間で済みます。
- 場所(店舗名・住所・フロア等)
- 相手の特徴(服装・年齢層・人数)
- 行為の内容(何をされている、または何をされたか)
- 現在の状況(行為が継続中か、既に収まっているか)
この4点は、緊急時ほど口頭で漏れやすい情報です。相談窓口の担当者に、あらかじめこの4項目をメモする様式を渡しておくと、実際の場面で迷わず伝えられます。
通報後に会社がやること
通報した後の対応も、あらかじめ決めておく事項です。
まず、被害を受けた従業員の安全を確保します。別室への移動、他の従業員による付き添いなどが該当します。
次に、行為の内容・日時・対応の経緯を記録します。この記録は、後日警察から事情を聞かれた場合の説明資料にもなります。
最後に、相談窓口での事後対応です。従業員が受けた行為について、相談したことを理由に不利益な扱いをしないことが、カスタマーハラスメント対策の措置義務の一つに含まれています。
通報だけでなく、その後の従業員へのフォローまでが一連の対応です。
社内対応で足りる段階との線引き
要求内容に無理があっても、脅迫や暴力を伴わず、交渉の余地がある段階では、110番や#9110の対象にはなりません。
この段階は、事前に決めた会社の方針に沿って、相談窓口の担当者や上長が対応します。要求を断る、担当者を交代する、対応時間に区切りをつけるといった手段が、社内対応の範囲に含まれます。
行為がエスカレートし、前章までに挙げた罪名に該当しうる言動が出てきた時点で、110番または#9110への切り替えを検討します。この境界をあらかじめ従業員に周知しておくことが、方針の明確化という措置義務の実質的な中身になります。
社内研修で、この3段階の判断基準と該当しうる罪名を従業員に周知する方法として、ハラスメント対策オンデマンド研修があります。
1社33,000円(税込・受講者10名まで、11名目以降は1名につき3,300円税込を加算)で、カスタマーハラスメント対策研修(全従業員向け)を含む講座を、1話5分前後に分割して視聴できます。
よくある質問
Q. 110番するかどうか迷ったら、まず#9110にかけてもいいですか。
行為が現在進行中で緊急性がある場合は110番が原則です。既に行為が収まっていて緊急性がなく、対応の仕方について相談したい場合は#9110が対象になります。迷う場面が多い会社は、事前に判断基準を従業員に周知しておくことをすすめます。
Q. 従業員が独断で110番してもよいことにしていますか。
方針として明確に決めておくべき点です。目の前で暴力や脅迫が起きている緊急時に、上長の判断を待たず通報できるようにしておくかどうかは、会社ごとに方針を明文化し、周知しておく必要があります。
Q. 通報した場合、行為をした客が必ず処罰されますか。
必ず処罰されるとは限りません。行為が実際に犯罪に該当するかどうか、処罰されるかどうかは、警察・検察が個別に判断します。会社側は該当しうる行為を整理して伝える役割にとどまります。
Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。
2026年9月時点の情報です。刑法の条文・法定刑はe-Gov法令検索で確認した現行の内容、厚生労働省・東京都の指針は公表内容に基づいています。自社の対応が義務の内容を満たしているかどうかは、管轄の労働局または顧問の社会保険労務士に確認してください。