この記事では、無断録音の適法性の整理、録音以外に残すべき記録項目、録音データの保管方法を説明します。
無断録音は違法ではない。最高裁の判断
最高裁平成12年7月12日決定は、後日の証拠とするために相手方の同意なく会話を録音した行為について、違法でなく、その録音テープの証拠能力も否定されないと判示しています。
会話の当事者本人が、自分の身を守るために自分が参加している会話を録音する行為が問題になった事案です。第三者が無関係な会話を盗聴するケースとは前提が異なります。
カスタマーハラスメントの場面に当てはめると、対応する従業員自身が、自分と顧客等とのやり取りを録音することは、この整理に沿います。
ただし、これは「証拠として扱われうる」という整理であり、個別の事案でその録音が実際に証拠として採用されるかどうかの最終判断は裁判所が行います。断定はできません。
先に周知しておくのが実務上の整理
無断で録音してよいとしても、いきなり録音するより、先に「録音する」と伝えておく方が実務上は扱いやすくなります。
理由は2つです。1つは、周知そのものが抑止効果を持つことです。もう1つは、相手が録音を知った上で発言した内容として扱えることです。
周知の方法は3つあります。方針文書への記載、店頭・受付での掲示、電話対応での自動アナウンスです。
いずれも「通話・対応内容は録音する場合があります」という一文を、来店前・通話開始前に相手の目や耳に触れる形で置く方法です。
方針文書は、既に周知義務のあるカスタマーハラスメント対策の方針と合わせて1つの文書にまとめられます。別立てで新しく作る必要はありません。
録音以外に厚労省が挙げる対処方法
厚生労働省のカスタマーハラスメント対策指針は、事後対応の例として録音・録画を挙げています。
その際、個人情報保護法を遵守することを求めています。通話の録音は相手の音声という個人情報を取得する行為に当たるため、利用目的の通知・公表など、個人情報保護法上の一般的な取扱いルールに沿って運用する必要があります。
指針が示すのは、録音を義務づける規定ではなく、対処の選択肢の1つとして録音・録画を挙げているという位置づけです。録音するかどうか自体は会社が判断します。
録音していない場面で残す記録
すべての対応を録音できるとは限りません。対面での突発的なやり取りや、録音機能のない電話回線での対応がこれに当たります。
録音がない場合でも、対応した従業員が記憶が新しいうちに記録を残すことで、後の相談・報告の材料になります。記録すべき項目は次のとおりです。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 日時 | 対応を開始した年月日・時刻 |
| 場所 | 店舗名・電話・オンライン等の対応チャネル |
| 相手の特定情報 | 氏名(名乗った場合)・会員番号・連絡先の有無 |
| 要求内容 | 相手が求めた内容(返金・交換・謝罪等) |
| 発言 | 威圧的・脅迫的と感じた発言の具体的な内容 |
| 対応者 | 対応した従業員名・同席者の有無 |
| 対応時間 | 対応の開始時刻と終了時刻 |
| 結果 | 対応の結末(相手が要求を取り下げた、対応を打ち切った等) |
この記録様式を、録音の有無にかかわらず毎回同じ形式で使うと、後から複数の事案を比較しやすくなります。
録音データの保管方法
録音データを残しても、保管方法が決まっていないと、必要なときに取り出せなかったり、逆に不要な範囲まで社内に広まったりします。
決めておくべき点は3つです。
- 誰がアクセスできるか。 相談窓口の担当者と、対応した従業員の直属の上長など、対応に必要な範囲に限定します。
- 保存期間。 会社が自社の運用として決めます。相談・紛争化までの一般的な期間を踏まえて設定します。
- 相談窓口と共有する範囲。 録音データそのものを共有するか、記録様式に基づく要約のみを共有するかを事前に決めます。
これらは方針文書に含めておくと、労働局の報告徴収の際にも説明しやすくなります。
録音を使う3つの場面
録音を残す目的は大きく3つに分かれます。
1つ目は、対応した従業員を守るためです。「言った・言わない」の食い違いを防げます。
2つ目は、会社としての事実確認のためです。相談を受けた窓口担当者が、対応の経緯を第三者の立場で確認する際の材料になります。
3つ目は、警察や弁護士に相談する際の材料としてです。暴行・脅迫・強要などに該当し得る言動があった場合、録音データがあると相談時の説明が具体的になります。
いずれの場面でも、録音データ単体で完結させず、前章の記録様式とあわせて保管することで、対応の一部を埋める材料になります。
自社研修での位置づけ
証拠の残し方は、カスタマーハラスメント対策の措置義務のうち、相談対応の体制整備に関わる論点です。
株式会社リバラクトの「ハラスメント対策オンデマンド研修」は、カスタマーハラスメント対策研修(全従業員向け・全15話・約75分)とハラスメント対策研修(管理職向け・全15話・約63分)の2講座で、対応の基本的な考え方を扱います。
料金は1社33,000円(税込)で受講者10名まで、11名目以降は1名につき3,300円(税込)加算です。
録音や記録様式そのものの整備は自社で行う部分であり、研修は対応する従業員の基礎知識を整える位置づけです。
よくある質問
Q. 顧客に気づかれずに録音したデータは、裁判で証拠として使えますか。
最高裁平成12年7月12日決定は、後日の証拠とするために相手方の同意なく会話を録音する行為自体は違法でなく、録音データの証拠能力も否定されないと判示しています。ただし、個別の事案で実際に証拠として採用されるかどうかの最終判断は裁判所が行います。
Q. 録音していることを伝えると、かえって相手を刺激しませんか。
方針文書・掲示・自動アナウンスによる周知は、対応が始まる前に一般的な運用として伝える方法です。個々の対応の場でその都度告げる方法とは異なり、事前の周知として位置づけられます。
Q. 録音データを取得する際、個人情報保護法上の対応は必要ですか。
必要です。厚生労働省のカスタマーハラスメント対策指針は、録音・録画を対処方法の例として挙げつつ、個人情報保護法の遵守を求めています。利用目的の通知・公表など、個人情報保護法上の一般的な取扱いルールに沿って運用します。
Q. この記事の内容は、いつ時点の情報ですか。
2026年9月時点の情報です。裁判例・指針の記述は今回確認できた一次資料に基づいています。自社の運用が要件を満たすかどうかは、管轄の労働局か顧問の社会保険労務士に確認してください。